謙虚な気持ちで自由なブログを配信しています。どうぞお手柔らかに。

第8回 選挙カーがなぜあんなにうるさいのか

公職選挙法という「昭和の化石」——
インターネットが当たり前の時代に、なぜ名前を連呼し続けるのか

「〇〇でございます! 〇〇をよろしくお願いいたします!」

選挙が近づくと、住宅街にあのうるさい声が響いてきます。昼寝の邪魔をされた。赤ちゃんが起きた。病院の近くでも平気でやっている——。

多くの人がうんざりする選挙カーの名前連呼。でも、なぜこれが今も続いているのかを知っている人は、ほとんどいません。

答えは「公職選挙法」という、昭和25年(1950年)に作られた法律にあります。スマートフォンどころかテレビも普及していなかった時代の法律が、SNS全盛の今も選挙のルールを支配しているのです。

📌 POINT ── この記事の結論

選挙カーの名前連呼は、公職選挙法によって「それ以外の選挙活動が禁止されている」から残っているのであって、効果的だからやっているわけではありません。この法律は1950年制定の「昭和の化石」であり、ネット選挙・戸別訪問・選挙期間中のビラ配布など、現代では当たり前に思えることの多くが今も規制されています。なぜ変わらないのか——その理由もまた、政治の本質を映し出しています。

📖 REASON ── 公職選挙法とは何か

「禁止」だらけの選挙——あなたが知らない驚きのルール

公職選挙法は1950年に制定された、国会議員・地方議員・首長などの選挙を規定する法律です。制定から70年以上が経過した今も、基本的な構造はほとんど変わっていません。この法律が選挙のあらゆる場面を細かく規定しており、その多くが「これは禁止」という制限の形をとっています。

公職選挙法が定める「驚きの禁止・制限」一覧

禁止

戸別訪問

候補者が有権者の家を一軒一軒訪ねて支持を求めることは禁止。諸外国では最も基本的な選挙活動のひとつだが、日本では違法。「買収につながる」という理由からだが、実態は現職有利を守るためとも言われる。

禁止

選挙期間中のビラ・チラシの自由配布

街頭でのビラ配布は厳しく制限される。配布できる枚数・形式・場所が法律で細かく定められており、違反すると逮捕されることもある。

制限

インターネット選挙活動(2013年に一部解禁)

SNS・ウェブサイトでの選挙活動は2013年にようやく解禁。しかしメールでの投票呼びかけは候補者本人のみ可能で、一般有権者は今もメールで「〇〇に投票して」と送ることが禁止されている。

制限

選挙運動期間の長さ

衆院選はわずか12日間、参院選は17日間のみ。それ以前に選挙活動を行うと「事前運動」として違法になる。告示日前に街頭演説をしただけで逮捕されたケースもある。

規定

選挙カーの使用と名前の連呼

選挙カーは1候補者につき1台のみ認められ、走行中は「名前・選挙区・政党名」しか言ってはいけない。政策を話しながら走ることも違法。止まって演説するときだけ政策を語れる。

つまり選挙カーが名前しか連呼しないのは、走りながら政策を話すことが法律で禁じられているからです。「〇〇でございます!」という連呼は、候補者が「面倒くさいからやっている」のではなく、法律上それしかできないのです。

これほど細かく規制された選挙活動のルールは、先進民主主義国の中でも日本が突出しています。アメリカ・イギリス・ドイツでは戸別訪問は当然の権利であり、選挙期間の制限もほとんどありません。

💬 EXAMPLE ── 「おかしい」とわかっていても変わらない理由

法律を変える権限を持つ人が、この法律で得をしている

第2回(議員の給与)でも触れた構造と同じです。公職選挙法を変える権限を持つのは国会議員です。そして現行の公職選挙法は、「現職・知名度がある候補者に有利」な仕組みになっています。

現行法が「現職有利」になっている3つの理由

1

戸別訪問が禁止されると、地盤(後援会・支持者ネットワーク)を持つ現職が圧倒的に有利になる。新人が一から有権者と接触する手段が極めて限られる。

2

選挙運動期間が短いほど、すでに知名度のある現職が有利。12日間では新人が名前を覚えてもらうことすら難しい。

3

ビラ・SNSの規制が厳しいほど、テレビ・新聞での露出が多い現職・大政党が有利になる。お金と組織を持つ側の一人勝ち構造が温存される。

つまり公職選挙法は、「現職議員が自分たちに都合の良いルールを守り続けている」側面があります。法律を変えれば自分たちの再選が難しくなるかもしれない——だから変えない。この構造が、昭和の化石を令和に生き残らせている本質的な理由です。

2013年にネット選挙が解禁されたのは、若者の選挙離れへの危機感と、党派を超えた推進派議員の努力がようやく実を結んだ結果でした。変化は不可能ではありません。しかし変えるためには、国民がこの「おかしさ」に気づき、声を上げ続けることが必要です。

主要国の選挙活動規制の比較

戸別訪問

ネット活動

運動期間制限

🇯🇵 日本

禁止

一部制限あり

12〜17日間

🇺🇸 アメリカ

自由

ほぼ自由

制限なし

🇬🇧 イギリス

自由

ほぼ自由

緩やかな制限

🇩🇪 ドイツ

自由

自由

制限なし

✅ POINT ── まとめ

うるさいのは候補者のせいではなく、法律のせいだった

選挙カーにうんざりしていた方も、今日からは少し見方が変わるかもしれません。あの名前の連呼は、候補者が「これが効果的だと思っているから」ではなく、「法律上それしかできないから」やっているのです。

昭和25年に作られたルールが令和の選挙を縛っている。変える権限を持つ人が、変えることで損をする仕組みになっている——この構造を知ったとき、「選挙をもっとよくしたい」という思いは、まず「おかしなルールを変えろと声を上げること」から始まると気づきます。民主主義は投票箱の前だけではなく、日常の声の積み重ねでも動きます。

📝 今日覚えておきたい3つのこと

選挙カーが名前しか言えないのは、走行中に政策を話すことが公職選挙法で禁止されているから。候補者の好みではなく法律の問題。

公職選挙法は1950年制定の「昭和の化石」。戸別訪問禁止・ビラ規制・短い選挙期間など、先進国でも突出して厳しい規制が続く。

法律を変える権限を持つ現職議員は、この法律で得をしている。「制度を変える人が制度で得をしている」という構造が改革を阻んでいる。